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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和54年(う)215号 判決

被告人 田口友信

主文

原判決中、原判決罪となるべき事実第四乃至第一一の罪につき被告人を懲役三年に処し、原審未決勾留日数中二四〇日をその刑に算入した部分及び別紙に記載した出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反罪の事実と同一内容の公訴事実につき被告人を無罪とした部分とを破棄する。

原判決罪となるべき事実第四乃至第一一の罪及び別紙に記載した出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の罪につき、被告人を懲役三年三月に処する。

原審未決勾留日数中二七〇日を右三年三月の懲役刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は金沢地方検察庁検察官検事大和谷毅名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は要するに、原判決は併合罪の関係にある原判決罪となるべき事実第四乃至第一一の事実及び別紙に記載したのと同一内容の出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の公訴事実のうち原判決罪となるべき事実第四乃至第一一の事実のみを有罪と認めて、これらにつき被告人を懲役三年に処し、原審未決勾留日数中二四〇日をその刑に算入し、別紙に記載したのと同一内容の出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の公訴事実については、同法四条一項の「金銭貸借の媒介を行う者」とは借主と貸主の間に立つてその双方に働きかけることにより媒介を行う者のことであるとの解釈を示し、被告人は、別紙記載の各借主のため福井県信用保証協会の信用保証を得て使用保証書を発行してもらうため、右各借主と同保証協会との間に立つて媒介を行つたに過ぎず、貸主となるべき銀行等に対しては直接働きかける所為に及ばなかつたことは勿論働きかける意図もなく、単に同保証協会が保証書を発行した者については同協会から銀行等に連絡して融資の斡旋をしている事情を事実上認識していたに過ぎないことを理由にこれらを無罪とする判決を言渡したものであるところ、同法四条一項の「媒介とは、貸主と借主の間に介在して金銭貸借関係の成立を容易ならしめる一切の行為をいうもので、必ずしも貸主と借主の間に立つて双方に直接働きかけて媒介することを要するものではないと解するのが相当であるから、なんらの合理的根拠もなく同法四条一項の「金銭貸借の媒介を行う者」というのを前示のとおり制限的に解釈し、別紙記載の各事実自体は全面的に認定しつつ、これらを無罪とした原判決は同法四条一項の適用を誤つたもので、原判決罪となるべき事実第四乃至第一一の罪と別紙記載の出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の各事実とは刑法四五条前段の併合罪の関係にあるから、右法令適用の誤が原判決中前記の被告人を懲役三年に処し(原審未決勾留日数中二四〇日算入)た部分及び被告人を無罪とした部分に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

所論にかんがみ勘案するに、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律四条は金銭貸借に関し貸主と借主との間に介在して仲立、斡旋等の媒介をする者が不相当に高額な手数料(礼金その他名義の何たるかを問わない。)を取得し、これにより金銭貸借の利益の実価が不当に減少する結果となることから生ずる弊害を防遏するため、その貸借金額の百分の五に相当する金額をこえる手数料の契約をしたり、これをこえる手数料を受領したりすることを禁止し、同法一一条一項一号の規定によりこれを可罰的なものとしたものであるから、同法四条一項にいう「金銭の貸借の媒介を行う者」とは貸主と借主の間に介在して貸借関係を成立せしめるため仲立、斡旋その他の加工、幇助行為を行う者であつて、右の媒介行為は必ずしも貸主、借主の双方に自ら直接、または自己と利害を共通にする一心同体的立場にある者を介して働きかけ、金銭貸借関係成立の全過程または過程の大部分にわたつて介入する者のみならず、その一環部分のみに実質的に介入、加工し、これにより結局終局的に金銭貸借関係の成立を容易ならしめる行為をする者をも含むと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、記録によれば、被告人は、資金繰の必要等のため融資を受けることを強く望んでいた別紙記載の各金銭借主からの申出により、融資を受けられた場合にはその貸借金額の百分の十を手数料として被告人が取得することを約させた上で、福井県信用保証協会の信用保証を得て、右保証の信用力の許にそれぞれの希望する銀行等の融資元から借金をする方法を教示し、同協会に対する信用保証申込手続を代行し、同協会担当係員と折衝して、これら借入希望者に対し信用保証が与えられるよう斡旋し、これに成功したものであつて、その際同協会が一旦信用保証を与えて信用保証書を発行した場合には、同協会において融資元の銀行等に対し借入希望者を紹介、連絡等して融資の斡旋をすること及びそうなれば同協会の信用により信用保証を受けた者は例外なく融資を受けられる結果となる事情を十分認識しており、被告人の斡旋により同協会の信用保証を得た別紙記載の各金銭借主は被告人の右認識どおりの経緯により別紙記載の各金銭貸付を受け、これにより被告人は前記約旨に従い別紙記載の手数料を受領したものである事実を認めることができるのであつて、原判決もその挙示する証拠により右と同一の事実、すなわち別紙に記載した各事実と同一内容の事実を全面的に確定して認定したこともまた明らかである。

従つて被告人は別紙記載の各金銭借主とそれぞれに対する銀行等貸主との間に介在してその間に金銭貸借を成立せしめることを目的として、金銭貸借関係成立の全経緯中最も重要な意味を有する各金銭借主に対し福井県信用保証協会の信用保証を得させる手続過程に介入し、それぞれの融資希望者に対し右信用保証を与えるべくこれを同協会に斡旋し、結局最終的に所期する金銭借入の目的を達成せしめたのであるから、これが出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律四条一項の「金銭の貸借の媒介を行う者」に該当することは明らかであり、原審裁判官は当然別紙に記載した被告人の各所為をそれぞれ同法違反罪に問擬すべきであつたところ、記録によれば原判決は所論のとおりの解釈的立場をとり、被告人がそれぞれの融資元に対し直接働きかけた事実も、その意図もなかつたことを理由に、これらをいずれも罪とならないものと解し、主文で無罪の言渡をしたことが明らかであるから、原判決は法令の適用を誤つたもので、そして原判決罪となるべき事実第四乃至第一一の罪と別紙に記載した出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の各罪は刑法四五条前段の併合罪の関係にあるから、右法令適用の誤が原判決中原判決罪となるべき事実第四乃至第一一の罪につき被告人を懲役三年に処し(原審未決勾留中二四〇日算入)た部分及び別紙記載の各事実につき被告人を無罪とした部分に影響を及ぼすべきことが明らかである。論旨は理由がある。

よつて本件控訴はその理由があるから刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決中前示被告人を懲役三年に処し(原審未決勾留日数中二四〇日算入)た部分及び被告人を無罪とした部分を破棄し、同法四〇〇条但書に則り当裁判所において更に判決する。

原判決の認定した、原判決罪となるべき事実第四乃至第一一の罪に対しそれぞれ原判決の適用した刑罰法令を適用し(第一一の罪につき刑種の選択も同じ。)別紙記載の各罪に対しそれぞれ出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律四条一項、一一条一項一号、刑法六〇条を適用して、いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により刑の重い詐欺罪のうち犯情の最も重い原判決罪となるべき事実第一〇、原判決別紙犯罪事実一覧表(六)の1乃至5の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年三月に処し、刑法二一条により原審未決勾留日数中二七〇日を右本刑に算入する。

以上の理由により主文のとおり判決する。

(裁判官 辻下文雄 石川哲男 宮平隆介)

別紙

(出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反罪)

被告人は

一、鮫島義則及び齋藤増男と共謀の上

1、金沢こと金雪雄が第一勧業銀行福井支店から昭和五三年一二月二二日付で三、五〇〇、〇〇〇円の金銭の貸付を受けるに際し、その媒介を行い、その手数料として同人から、同年一一月一八日ころ現金五〇、〇〇〇円、同年一二月二二日ころ、現金二五〇、〇〇〇円、及び同月二七日ころ、現金五〇、〇〇〇円の各交付をいずれも福井市大手町二丁目一番一号南部ビル六階六〇三号室において受け、もつて右媒介に係る貸借の金額の百分の五に相当する金額をこえる合計三五〇、〇〇〇円の手数料を受領し、

2、秋本寿次が福井銀行今市支店から同年一二月二五日付で二、〇〇〇、〇〇〇円の金銭の貸付を受けるに際し、その媒介を行い、その手数料として同人から同月一五日ころ、現金五〇、〇〇〇円、及び同月二七日ころ現金一五〇、〇〇〇円の各交付をいずれも前記南部ビル六階六〇三号室において受け、もつて右媒介に係る貸借の金額の百分の五に相当する金額をこえる合計二〇〇、〇〇〇円の手数料を受領し、

3、田中精二が福井信用金庫駅前支店から同年一二月二九日付で三、〇〇〇、〇〇〇円の金銭の貸付を受けるに際し、その媒介を行い、その手数料として同人から、同月一日ころ、前記南部ビル六階六〇三号室において現金五〇、〇〇〇円、同月三〇日ころ、同市中央一丁目一四番四号、寿司店「ひろき寿司」において現金二五〇、〇〇〇円の各交付を受け、もつて右媒介に係る貸借の金額の百分の五に相当する金額をこえる合計三〇〇、〇〇〇円の手数料を受領し、

二、鮫島義則、齋藤増男及び大嶋恒男と共謀の上、五十嵐金夫が福井相互銀行日の出支店から同年一二月三〇日付で二〇、〇〇〇、〇〇〇円の金銭の貸付を受けるに際し、その媒介を行い、その手数料として同人から同年一一月二四日ころ、前記南部ビル六階六〇三号室において、丸金運輸株式会社(代表取締役五十嵐金夫)振出しの額面七〇三、〇〇〇円(ただし、入会金分三、〇〇〇円を含む。)の約束手形一通、同年一二月二三日ころ、福井市日の出町四丁目一一番一三号福井相互銀行日の出支店前路上において、いずれも右丸金運輸株式会社振出しの額面六九七、〇〇〇円及び額面七〇〇、〇〇〇円の各小切手一通の各交付を受け、もつて右媒介に係る貸借の金額の百分の五に相当する金額をこえる合計二、〇九七、〇〇〇円の手数料を受領し

たものである。

(前記各事実を認定した証拠の標目)(略)

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